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80歳をとうに越えた人でしたが、雨が降ろうと嵐になろうと一人でつえをついてやってきては、ひとりぼっちの患者の相手をしてくれます。
その熱意には敬服なのですが、このおばあちゃん、口を開くといつもきまって出てくるのは長生きの秘訣の一席。人間、まじめで正直に生活すれば、病気ひとつせず、きっと長生きできる。自分がその生き証人だ、とおっしゃるのですが、なにせこちらは大病で入院している身。あいづちの打ちようもなく、聞けば聞くほど気が滅入ってしまうのです。仲間の患者さんにこぼすと、「あのおばあちゃんの姿が見えると逃げ出すんだ」という人が何人もいて、大笑いになりました。
でも、こころ優しい看護婦さんや患者さんのなかには積極的におばあちゃんの話し相手になって、ていねいに出口まで見送って、それとなくほかの患者さんから遠ざけてくれる人もいて、どちらがボランティアなんだかわからない状態でした。
少し別のことですが、アメリカでの神学生時代に、東海岸にあるコネティカット・ホスピスでボランティアをしていたことがあります。そこでは、愛する人を看とった後、遺族がホスピスの活動に感動し、ぜひボランティアとして参加したいという熱意を示すことがよくあるのですが、遠慮してもらっていました。少なくとも半年ほど、悲嘆と喪失感をしっかり受け止め、じゅうぶんこころの整理がついたあとで、ぜひ連絡をください、ということでした。
悲しみに打ちひしがれた人にとっていちばん力になるのは、同じ経験を乗り越えた“先輩”の慰めです。その意味では貴重な存在なのですが、他者との深いかかわりに入る人は、まず、自分自身の気持ちがちゃんと整理されていなければならない。その意味

 

 

 

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